日本の仮想通貨市場に新規参入する企業、撤退する企業
2018.05.08
SBIホールディングスの圧倒的自信
4月26日、SBIホールディングス株式会社の、2018年3月期決算説明会が行われた。SBIと言えば、現在仮想通貨事業において、他社企業を圧倒する勢いで大きく展開している企業である。そんなSBIの社長である北尾吉孝氏は、2018年夏にも仮想通貨交換業の事業をスタートすると発表したが、その言葉は仮想通貨業界の現状を強く言い示している。
「どうせ私どもがやりだしたら、あっという間にナンバーワンになる。だから、ものすごい数のお客さんが来ても耐えられるシステムを構築しておかないといけない。安全性を徹底的に追求しないといけない」
引用元:https://www.businessinsider.jp/post-166536
BUSINNES INSIDER JAPAN「SBIの仮想通貨取引所、夏にも運用開始か —— 北尾社長「ナンバーワンになる」
北尾氏の言葉には様々な意味が込められている。その意味するところは、大きく分けて3つ考えられる。一つ目は、仮想通貨事業に対してSBIが圧倒的な自信を持っていること。現在の仮想通貨市場を達観して「あっという間にナンバーワンになる」というのだから、その算段はすでに固まってきているというわけだ。
二つ目は、顧客が仮想通貨に参入するのは、企業の信頼性によるところが大きいということ。仮想通貨の存在自体が、日本でも広まっているとはいえ、実際に仮想通貨投資をしている日本人はたったの3%程度である。その要因は、現在仮想通貨事業を展開している企業の、社会的な信頼性によるところも大きいのであろう。
そして三つ目は、仮想通貨の安全性に関しては、相当力を入れ、絶対に失敗することのないような体制を作ろうとしているということである。長年金融事業を培ってきた大手SBIが、仮想通貨事業にこれほどまでに慎重になっているのだ。
仮想通貨事業でナンバーワンになれると大胆に宣言しているSBI社長北尾氏の言葉を眺めることで、現在の仮想通貨市場の実態と、今後の展開が見えてくるのである。
大手企業の仮想通貨事業参入に勝算はあるのか
SBIホールディングス社長の北尾氏が、圧倒的な自信を持って事業展開の発表ができた理由は非常に簡単である。
それはSBIという企業が、これまで金融事業に長く取り組んできた経験があるからだ。SBIには言わずと知れたSBI証券や、SBIリクイディティ・マーケットで金融事業を展開している。こうした事業で成功してきたSBIは、当然金融事業の本質を理解しており、仮想通貨事業であってもその経験は十分に活かすことができるというわけだ。
こうした金融事業の経験値という点で見たときに、これから仮想通貨事業に参入する予定の大手企業は非常に強いということがわかる。
独自の仮想通貨MUFGコインを開発しているMUFGは、元々銀行なので当然積み重ねてきた金融事業の経験があるし、2018年にDMM Bitcoinの運営を開始したDMMも、DMM FXやDMM 株といった金融関係の事業を長年展開してきている。
2018年秋に仮想通貨交換業を開始するとしているYahoo!は、自社で圧倒的なイーコマース事業の経験があり、さらに仮想通貨事業を行ってきた株式会社ビットアルゴ取引所東京を買収することでさらに経験値を高めている。LINEはまだスタートから日が浅くはあるが、2014年末にLINE Payという決済サービスを展開してきた経験があるし、直接は関係ないかもしれないが、野村証券と提携してLINE証券をスタートするという発表もされた。
結局のところ、金融事業を自社で行ってきた大手企業や、大手企業の中でも金融業を行う他社企業を買収できる企業が、未来の明るい仮想通貨事業でも勝算があり、仮想通貨に参入してきているのだ。
数々の「未経験者」が仮想通貨事業撤退に
逆に、金融事業の経験がない企業は、仮想通貨交換業の撤退を余儀なくされている。2018年1月に発生したコインチェックのNEMハッキング流出事件によって、金融庁の規制が厳しくなっており、相次いで仮想通貨交換業を撤退する企業が出ているのだ。
「仮想通貨事業は儲かるから」といって参入した多くの企業は、明らかに金融事業の十分な経験や実績が乏しい。そんな利益だけしか見てない企業が、高度なセキュリティ技術を整備し、高額な資産を安定的にかつ安全に管理することは極めて困難なのである。
コインチェックに関しても、ハッキング被害にあう前に、多額の資金を投下して幾度となく取引所のCMを流しており、セキュリティもままならない状態で利益ばかり追求した結果が悲惨な結果を招いた。
4月末には、仮想通貨事業に参入すると発表していたサイバーエージェントが、早くも仮想通貨交換業の参入を断念した。サイバーエージェントの藤田晋社長が語った言葉が次だ。
「リスクがどこまでか見えない。傷が浅いうちというか、ほとんど傷を追っていない状態で撤退するのが賢明だろう」
引用元:http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1804/26/news139.html
ITmedia NEWS「『傷が浅いうちに』サイバーエージェントが参入断念、仮想通貨交換業の難しさ」
サイバーエージェントはAmebaブログやAbemaTVで有名だが、どちらも金融事業ではない。その点で言えば、仮想通貨交換業で求められる技術や対策がわからないというのは当然のことで、リスクが見えないための撤退というのは至極当然の判断かもしれない。
しかしながら、サイバーエージェントは仮想通貨事業そのものを諦めたわけではなく、今後は仮想通貨の研究に注力し、ゆくゆくはAbemaTVやゲームなどで独自通貨の活用を目指すとしている。
仮想通貨の大衆化と企業や通貨の淘汰と安定
ここまで、大手企業の仮想通貨参入や、仮想通貨関連企業の事業撤退について、企業としての金融事業の経験値という観点で紹介してきた。簡単に言ってしまえば、金融事業の経験値が高い企業が生き残り、そうでない企業は撤退するということだ。
そしてこの仮想通貨企業の淘汰が、仮想通貨市場を新しいステージへと押し上げていくことになる。
大企業参入の安心感によって、仮想通貨市場は一気に拡大して大衆化が進行していく。それに伴い日本の仮想通貨関連の法整備が徐々に進み、溢れかえっていた多くの「みなし業者」や、その他経験値の薄い業者はどんどん撤退していく。
さらに大企業が扱う通貨が、BTC, ETH, XRP, BCHなどの主要通貨と、企業によっては独自通貨だけに限られてくるというのも大きく注目すべき点である。一般に価値を認められなかった多くの通貨は、徐々に淘汰され消えていくことも十分考えられる。
また今後市場が拡大し、需要が増えれば増えるほど、大企業は顧客の維持に努めようとする。この時扱われる主要通貨が、現在のように価格のボラティリティが高い状態にあると、当然ながら顧客はリスクを考え利用を控える。そうならないために大企業は努力するわけで、必然的に価格のボラティリティは低くなり、仮想通貨が投資目的ではなく決済やプラットフォームとしての利用にシフトしていくことになるだろう。
仮想通貨は今、新たなフェーズを迎えようとしている。大衆化が進み、安定性や健全性が求められる時代に突入しつつある。2018年の大企業の仮想通貨事業の参入が、仮想通貨市場全体の活性化と健全化に繋がっていくことを期待したい。